米国特許法第256条を参照のこと。 17. 当事者は、欺瞞的意図についての証明義務を有しているのがいずれの側であるかについて意見を異としている。被告は、発明者の不当併合によって特許が無効になるには、原告が明白かつ確証的な証拠をもって欺瞞的意図を証明すべきであると主張する。一方原告は、共同発明者が不適切に特許に記載されていることが特許の異議申立て[*10]によって一旦証明されれば、欺瞞的意図なくして発明者の誤記があったことを証明する責任は、特許権者に移行すると主張する。
18. Mas-Hamiltonは、特許第656号がLarry Cutterを発明者として不正確に記載していることを理由に、その無効を主張する。さらに、特許出願書類には、Nick Gartner およびPeter Phillipsがアメリカ人であると不正確に記述している。
19. 特許第656号には、Gartner氏およびPhillips氏の共同発明者がCutter氏であるとの不正確な記載がある。錠設計に対するCutterの貢献は、GartnerおよびPhillipsが発明を実施した後のことである。Gartner氏は1989年11月に実施可能な試作品をMoslerに持ち込んだが、Cutterは1990年1月になってからLaGardの従業員となったのである。Cutterは1990年後半になって、試作品をMoslerに提出するようにLaGardに提案した。Gartnerはこれらの活動があったために、Cutterが共同発明者であると錯覚した。
20. 1996年9月30日にLaGardは特許庁に登録発明者の訂正を申請した。LaGardの申請は、「当初記載された発明者もしくはその複数の発明者によって証明された事実の宣誓書」[*11]を含むという点で連邦行政命令集37 第1.48(a)(1)条に規定される特許庁の要求事項に従うものであった。発明者であるGartnerおよびPhillipsならびに誤って発明者と記載されたCutterは、誤記によって特許第656号に発明者と記載されてしまったこと、ならびに誤記は同氏の欺瞞的意図によるものではないことを明示し、願書とともに宣誓書を提出した。
21. さらに発明者を訂正するLaGardの申請は特許庁に、GartnerおよびPhillipsの国籍にも誤りがあったことを通知した。
22. 1997年2月3日、特許庁は、登録発明者の誤記はいかなる欺瞞的意図によるものでもないとしてLaGardの登録発明者訂正の申請を認容した。DX115を参照のこと。
23. 欺瞞的意図があったか否かについての証明義務をいずれの側が負うとしても、裁判所は公判において提出された証言および証拠によって、特許出願書の国籍の誤記およびCutterが誤って発明者として登記されたことは、欺瞞的意図によるものではないという判断に落ち着いた。
24. よって、裁判所は特許第656号が不正確な発明者の登記により無効になるとはされないとした。
B. 他の者による発明
25. 他の者が発明した事項[*12]については、いかなる者も特許の権利を有していない。 Bergyについて、596 F.2d.952, 960 (C.C.P.A. 1979)を参照のこと。特許は、その主題事項の第一の発明者が他の者である場合には無効となる。
26. 米国特許法第102(g)条によれば、特許の権利を有するには、以下の事項に当てはまらないことを条件とする。
(g) 出願人の特許についての発明以前に、本国で他の者がそれを発明し、かつその発明を放棄、禁止、隠匿していない場合。発明の優先順位を決定する際には、それぞれ発明の考案日と発明の実施日のみならず、他の者による考案以前の時点から、最初の考案者であり最後の実施者となってしまった者が合理的な努力を行っていたかどうかに対して配慮がなされなければならない。
27. 一方の当事者がその発明を最初に考案したこと、また後になって発明を実施したことにおいて合理的な努力が行われていたことを証明しない限り、発明を最初に実施した当事者に発明の優先順位が与えられる。Price v. Symsek, 988 F.2d 1187, 1190 (Fed. Cir. 1993)を引用するMahurkar v. C.R. Bard, Inc., 79 F.3d 1572, 1577 (Fed. Cir. 1996)を参照のこと。「構想」とは、発明という行為の中での知的な分野の完全履行を意味する。発明が意図された目的どおりに機能したときに、実施が行われたものとみなされる[*13]。
28. 発明先行についての防禦において、Mas-HamiltonはClayton MillerおよびMichael Harveyが、特許第656号において説明され請求されている錠をLaGardの発明者が発明する以前に、X-07錠を発明していたと主張した。
29. Nick GartnerおよびPeter Phillipsは長年、錠産業に従事してきた。いずれの者も少なくとも、錠の装置に関する30以上の特許の有名な発明者である。GartnerおよびPhillipsの特許は、Millerを含む多くの錠のメーカーおよび販売業者に実施許諾が与えられた。Gartnerは、「知識ある精神異常者」から原子力潜水艦トライデントを保護するために海外で使用できる錠の開発において成し遂げた業績について、海軍省およびFBIから褒賞を受けた。
30. 1989年11月に、George HerrmannおよびGartnerは、オハイオ州ハミルトンのMosler, Inc.に錠の試作機を持ち込んだ。Herrmann氏は、現在もそして1989年時点においても、LaGardの製品を販売する独立販売店代表であった。そこで、HerrmannとGartnerは、Moslerが実施許諾に基づく錠の製造に興味を示すよう、Moslerの技術者に錠を提示した。
31. LaGardがMoslerに持ち込んだ錠は組み合わせを有していなかった。その代わりに、[*14]スイッチを閉めることによってソレノイドに電子シグナルが送られるものであった。n4シグナルがソレノイドに送られると、ダイアル作動によって、錠の装置が錠を開ける仕組みになっていた。より複雑な電子組み合わせについての設計および実施は公知のものであり、発明の重要な特徴ではなかった。
LaGardの発明の時点では、電子、複数番号組み合わせサーキットは公知のものであった。このような装置は米国特許第4,745,784号に説明されており、特許第656号においても、このようなよく知られたサーキットの例として、この特許を挙げている。
32. そこでLaGardは1989年11月には、特許第656号の錠を実施していた。明らかなように、錠はLaGardが実施する以前に考案されていたものである。LaGardの1989年11月の試作品が実施のためには適合しなかったとしても、少なくとも試作品は、その日付における考案の証拠となる。LaGardは1990年8月から9月にかけて、複数の番号組み合わせによる錠の最初の試作品を製作した。その試作品は、Moslerが今後の実施許諾のために錠を評価する目的をもって、Moslerに数個の錠を提供するという契約の一部であった[*15]。LaGardがMoslerに送った錠は、実用に適合するものであった。LaGardは1989年11月からMoslerへの試作品の完成までの間に努力をしていたわけである。
33. X-07錠の発明者の一人であるClayton Millerは錠前業者等の流通市場の顧客に錠や錠の部品および工具を販売する会社であるLockmastersの会長である。Millerはこれまで長年錠産業に従事してきており、自身の特許もいくつか有している。LockmastersはLaGardの独占的流通市場販売店である。LaGardの販売店としてMillerは、特許第656号の錠を閲覧する機会があったかどうかという直接的な証拠はないものの、LaGardの事務所および工場に出入りできる立場にあった。
34. X-07錠の発明者の一人であるMichael Harveyは電子技術者であり、アポロ・スペース・プログラムに使用された装置およびF-18で使用されたデジタル方式による安定サイトの開発を行った。1980年当初、GartnerおよびLaGardは、自動ダイアラー開発のためにHarveyと委託の契約を交わした。HarveyがLaGardの顧問業務を最後に行ったのは1982年であった。
35. 1980年半ばに、共通役務庁(GSA)からClayton Millerに、安全のための高セキュリティー組み合わせ錠の基本的技術に関する調査[*16]についてアプローチがあった。MillerはGartnerとの長年にわたる関係から、LaGardが自動ダイアラーについて行った業務について知識があり、さらに詳しい情報を得るためにGartnerと業務の提携を交わした。GartnerはMillerに、Harveyの電話番号を教えた。MillerとHarveyはC&M Technologyを設立し、機械的に錠の位置を探知し、自動ダイアラーだけを使用している時よりもより迅速に錠をあけられるように、自動ダイアル機能および音響情報を使用する装置である自動マニピュレータを開発した。自動マニピュレータは機械型組み合わせ錠をあけるための方法を提供するものだったので、HarveyとMillerは次世代の高セキュリティー組み合わせ錠の新しい型のニーズがあるものと判断した。HarveyとMillerは1986年頃にX-07錠の業務にとりかかった。
36. Harvey氏がプロジェクトにかかわる者に試作機の実地説明に成功した1990年4月26日には遅くともX-07錠が実施品となっていた。
37. 証拠および証言を聴取した結果、裁判所は、X-07錠と特許第656号とは、別々の発明者によって独立して開発された別個の発明であるとし、その旨判断している。したがって原告は、[*17]明白かつ確証ある証拠によって、LaGardの特許第656号が他の者の発明であると立証できなかった。n5
C. 派生
38. Mas-Hamiltonは、LaGardはその発明を他から導き出したものだとして、特許第656号が無効であると主張した。派生とは、他から発明を借用し、自身の特許とすることをいう。Lamb-Weston, Inc. v. McCain Foods, Ltd., 78 F.3d 540, 549 (Fed. Cir. 1996) (Newman, J., dissenting)を参照のこと。その発明が先行技術であるか否かには関連しない。参照は前述に同じ。指定発明者が、特許請求されている知識を他のものから取得したか、あるいは少なくとも特許請求のかなりの部分をとってみると、その発明が従来の技術の一つに自明であることを証明しなくてはならない。New England Braiding Co. v. A. W. Chesterton Co., 970 F. 2d 878, 883 (Fed. Cir. 1992); 米国特許法第 102(f)条 (特許が請求されている主題事項を自身で発明した限りにおいて…その者は特許を受ける権利を有する[*18])。
39. 前述のように、証拠および証言を聴取した結果、裁判所は、X-07錠と特許第656号とは、別々の発明者によって独立して開発された別個の発明であるとし、その旨判断している。したがって原告は、明白かつ確証ある証拠によって特許第656号が他の者からの派生であると立証できなかった。
D. 販売による無効
40. Mas-Hamiltonは、特許第656号の主題が1990年12月17日付の特許出願の1年前よりも以前にLaGardによって「販売」されており、したがって102(b)条に基づき特許は無効であると主張している。原告はLaGardが、1989年11月にMoslerに試作品の錠を持ち込んだときに、特許第656号を販売したと主張している。申し立てられた発明が、特許出願の1年前よりも以前に、本国において「販売」されていた場合には、発明者は特許請求権を喪失する。Buildex. Inc. v. Kason Industries, Inc., 849 F.2d 1461, 1462(Fed. Cir. 1985); 米国特許法第102(b)条を参照のこと。発明者は、発明の商品化から1年以内に[*19]特許出願書類を提出しなければならないという要件を厳格に遵守する必要がある。Mahurkarについては 71 F.3d 1573,1577(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。
41. 発明は、販売の可能性が明確である場合もしくは販売のオファーがある場合に、販売されているとされることがある。Buildex, Inc. v. Kason Industries, Inc., 849 F.2d 1461, 1462(Fed. Cir. 1985)を参照のこと。特許が無効とされるためには、必ずしも販売が完全なものでなければならないわけではなく、会社からの販売のオファーで十分であろう。上記を参照のこと。オファーが受諾されたか否かにかかわらず、1つの販売オファーのみで特許が無効とされる。A.B.Chance Co. v. RTE Corp., 854 F.2d 1307, 1311 (Fed. Cir. 1988)を参照のこと。手元に商品化された市場性のある製品がない場合であっても、申し立てられた発明がすでに「販売」されている場合には、その特許は無効とされる可能性がある。Barmag Barmer Maschinenfabrik AG v. Murata Mach. Ltd., 731 F.2d 831, 838(Fed. Cir. 1984)を参照のこと。審理される点は、申し立てられた発明を提供する者が、顧客に提供できるかもしくは提供された製品を自身が有していると考えていたか否かということにある。Paragon Podiatry Laboratory, Inc. v. KLM Laboratories, Inc., 984 F.2d 1182, 1187, n.5.(Fed. Cir. 1993)を参照のこと。このような販売オファーは、その詳細が開示されていない場合であっても、特許第656号を無効にすることができる。RCA Corp. v. Data General Corp., 887 F.2d 1056, 1060(Fed. Cir.1989)を参照のこと。
42. [*20]本事件においては、Mas-Hamiltonは明白かつ確証ある証拠によって特許第656号出願の1年前よりも以前に、明白な販売もしくは販売オファーがあったこと、また販売もしくは販売のオファーにかかわる主題事項が完全に請求された発明を予期していたことを証明しなければならない。Mahurkar v. Impra, Inc., 71 F.3d 1573, 1576(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。販売であるかどうかの決定は、第102(b)条の基本となる方策にかんがみて、状況全般によるものである。前述と同じ1577; Envirotech Corp. v. Westech Engineering, Inc., 904 F.2d 1571, 1574 (Fed. Cir. 1990)を参照のこと。これらの方策には以下が含まれる。すなわち、(1)一般に自由に入手できると考えられる公有の場から、発明を除去することを阻止すること、(2)発明の迅速かつ広範な開示を促進すること、(3)発明者が特許の潜在的経済価値を決定するために、販売活動後に合理的な時間の猶予を与えること、ならびに(4)制定法上の規定の期間を超えて、発明者が自身の発明の商品としての販売促進をすることを禁止することである。上記と同様を参照のこと。さらに販売による無効事項の基本となる方策には、制定法上の条項の冒頭にしたがって、発明者が自身の発明の商業価値[*21]から不当な利益を得ることを阻止する方策も含まれる。Ferag AG v. Quipp, Inc., 45 F.3d 1562, 1566(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。連邦巡回裁判所は、特許を付与された発明が「販売」されたかどうかを決定するための焦点は商品化にあると強調した。Mahurkar v. Impra, Inc., 71 F.3d 1573, 1577(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。
43. LaGardは、Moslerとの取り引きの目的は特許第656号の技術ライセンスについて交渉しこれを取得することであったと主張している。「発明における権利および潜在的な特許権の譲渡もしくは販売は、第102(b)条の意味する範囲においては発明の販売とはみなされない。」とある。Moleculon Research Corp. v. CBS, Inc., 793 F.2d 1261, 1267 (Fed. Cir. 1986) を参照のこと。
44. 公判において聴取された証言によって、LaGardが1989年11月に初めてMoslerを訪問したのは、FF-L-2740の仕様に合致する製品を開発したことをMoslerに明示するためであったとの結論にいたらざるを得ない。LaGardはMoslerに、特許第656号に説明される装置と基本的に同一の試作品を提示した。さらに、共通役務庁(GSA)へのプレゼンテーション用の追加試作品の提供を申し出た。LaGardは決してMoslerに、発明の販売を提案したわけではなかった。提案したのは、[*22](1)発明の生産権、もしくは(2)政府に対する発明の市場売買の独占的権利、のいずれかの実施許諾である。したがって状況全般から見て、原告は、1990年12月17日付の特許出願の1年前よりも以前に特許第656号が「販売」されていたという、明白かつ確証ある証拠を確立できなかった。
E. 公然実施による無効
45. Mas-Hamiltonは、特許出願の1年前よりも以前に、LaGardが試作品の錠をMoslerに持ち込んだ時点で、特許第656号は「公然実施」されていたとし、したがって第102(b)条に基づき特許は無効とされると主張している。米国における特許出願の1年前よりも以前に、本国で公然実施されていた発明には、特許が付与されない。米国特許法第102(b)条を参照のこと。
46. 「公然実施」とは、発明者以外の者であって、発明者にいかなる制限、禁止もしくは秘密保持義務を負うことのない者による、特許請求されている発明の使用を含むものと定義される。Lough v. Brunswick Corp., 86 F.3d 1113, 1119(Fed. Cir. 1996); Baxter International Inc. v. Cobe Laboratories, Inc., 88 F.3d 1054, 39 U.S.P.Q.2D (BNA) 1437, 1440(Fed. [*23] Cir. 1996)を参照のこと。第102(b)条の公然実施による無効は以下をその要件とする。すなわち、(1)発明が公然と使用されていること、および(2)使用は当初、試験的なものを目的としていなかったこと、である。Allied Colloids, Inc. v. American Cyanamid Co., 64 F.3d 1570, 1574(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。製品は、完成品が方法を問わず商業的に利用されているものであれば、「公然実施」されているとみなされる。Shatterproof Glass Corp. v. Libbey-Owans Ford Co., 758 F.2d 613, 622(Fed. Cir. 1985)を参照のこと。
47. ある特定の事項が公然実施による無効の原因となるか否かを決定する際には、状況全般が考慮されなければならない。U.S. Environmental Products, Inc. v. Westall, 911 F.2d 713, 716(Fed. Cir. 1990); Allied Colloids, Inc. v. American Cyanamid Co., 64 F.3d 1570, 1574(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。公然実施が存在するか否かは、その状況全般が公然実施による無効の基本となる方策と、どのように一致するかに依存する。Lough v. Brunswick Corp., 86F.3d 1113, 1122, n.5(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。これらの方策には以下の事項が含まれる。すなわち、(1)一般に自由に入手できると考えられる公有の場から、発明を除去することを阻止すること、(2)発明の迅速かつ広範な開示を促進すること、(3)発明者が特許の潜在的経済価値を決定するために、販売活動後に合理的な時間の猶予を与えること[*24]、ならびに(4)制定法上の規定の期間を超える期間にわたり、発明者が自身の発明の商品としての販売促進をすることを禁止することである。上記と同様を参照のこと。
48. 公然実施を決定する際に考慮されるべき要因には、公然に発生する活動の性質、公然実施の入手方法や公然実施の知識、使用者に課される秘密保持義務の有無、試験的活動の進行記録およびその他の証書の保管の有無、発明者もしくは発明者の代理以外の者による実験実施の有無、種々の試験実施方法、商業上の状況と比較した試験の規模、類似する製品の試験との比較における試験時間、ならびに試験製品のための支払の有無等が含まれる。Allied Colloids, Inc. v. American Cyanamid Co., 64 F.3d 1570, 1574(Fed. Cir. 1995)を参照のこと。
49. 公判において聴取された証言によって、LaGardが1989年11月に初めてMoslerを訪問したのは、FF-L-2740の仕様[*25]に合致する製品を開発したことをMoslerに明示するためであったとの結論にいたらざるを得ない。LaGardはMoslerに、特許第656号に説明される装置と基本的に同一の試作品を提示した。さらに、共通役務庁へのプレゼンテーション用の追加試作品の提供を申し出た。LaGardは決してMoslerに、発明の販売を提案したわけではなかった。提案したのは、(1)発明の生産権、もしくは(2)政府に対する発明の市場売買の独占的権利、のいずれかの実施許諾である。LaGardとMoslerとの間に秘密保持契約が締結されたという証拠は提出されていないものの、裁判所は業界における過去の慣例、およびLaGardの代表であるHerrmannおよびGartnerの証言に基づき、かつ業界� �従事する者の間の訴訟という性質にかんがみて、試作品の設計は秘密とされるものと判断した。この結論は、特許第656号の錠の開発に費やされた膨大な調査および費用に照らし合わせてみれば当然といえる。そうでないとすれば、LaGardが1万米ドルたらずで発明の構想を手放したということになるが、これについて裁判所は、公判において提出された証拠及び証言からは、その事実認定をなすことができなかった。さらにMoslerは特許第656号の非制限的、非限定的使用権を付与されていなかった。むしろ、[*26]Moslerの関心をライセンスに引き付けるというLaGardの目的に応じて、Moslerは単に制限的、限定的使用権を付与されただけであることが裁判所には明白となった。したがって原告は、LaGardによる特許出願の1年前よりも以前に製品が公然実� �されていたという、明白かつ確証ある証拠を立証できなかった。
F. 最良の態様
50. Mas-Hamiltonは、最良の態様についての要件を満たしていないことを理由に、特許第656号が無効であると主張している。米国特許法第112条に基づけば、特許明細書は発明者が意図した発明実施の最良の態様を記載しなければならない。最良の態様についての要件の目的は、発明者が、発明の好ましい実施例を実際は考案しているのに、これを公の場から隠匿しつつ特許出願をすることを回避することにある。DeGeorge v. Bernier, 768 F.2d 1318, 1324(Fed. Cir. 1985)を参照のこと。最良の態様についての要件は、特許出願人が特許のシステムに対して、「公正かつ率直」であることに確実を期すためのものであり、―これは特許付与の対価が満たされるべきであるという要件である― 発明実施についての、自身が知り得る範囲における最良の態様の適切な開示[*27]を出願時に行わない限り、他の者に対する独占的な権利を取得することはできないというものである。Amgen, Inc. v. Chugai Pharmaceutical Co., Ltd., 927 F.2d 1200, 1209-10(Fed. Cir. 1991)を参照のこと。
51. 最良の態様についての要件に違反があったか否かを決定するための審査は以下の通り2部構成になっている。すなわち、(1)発明者が出願時に、発明者が最良と考える、特許請求される発明の実施態様を知っていたか否か、および(2)通常の能力を持った当業者が最良の態様を実施することができるような適切な開示であるか、もしくは発明者は自身の好ましい態様を公の場から隠匿したかどうか、についてである。Chemcast Corp.v. Arco Industries Corp., 913 F.2d 923, 926(Fed. Cir. 1990)を参照のこと。特許が最良の態様についての要件に適合しているかどうかを決定する際に、以下の基本的な事実審問がなされる。すなわち、(1)出願時に、発明者が特許請求される発明の実施について最良の態様を有していたか否か、および(2)発明者が特許請求される発明の最良の態様を有している場合に、通常の能力を持った当業者が実施できるように、発明者が最良と考える態様を特許明細書が適切に開示しているか否か、を決定しなければならない[*28]。United States Gypsum v. National Gypsum Co., 74 F.3d 1209, 1212(Fed. Cir. 1996)を参照のこと。
52. 原告は、特許第656号はソレノイド・ハウジングが真鍮から形成されることが望ましいと開示している、と主張する。しかしながらその指図に従うと、原告は装置装置が機能しないものであると主張する。特許出願前にLaGardが製作したモデルの1つには真鍮及び銅もしくは鋼鉄からソレノイド・ハウジングが形成されており、申し立てられた発明者はそのモデルについて知っていた。したがって原告は、申し立てられた発明者は、特許第656号に開示された申し立てられた発明実施のより良い態様を知っていたと主張する。実施できない実施例を開示することによって、申し立てられた発明者は最良の態様を隠匿した、と原告は強く主張する。Chemcast Corp. v. Arco Industries Corp., 913 F.2d 923, 926(Fed. Cir. 1990)を参照のこと。
53. さらに原告は、ソレノイド・ハウジングおよびレバーの許容誤差(適正な動作のための部品の精密度)は、特許第656号の錠の適正な実施に重要である、と強く主張する。特に公判における証言によって、特許第656号の実施例において示される錠は、戻り止め[*29]ボールがカム・ホイールに系合している状態でダイアルが継続して回転すると、ソレノイド・ハウジングがハウジングの右側に接触し、このために作動しなくなってしまうことを示唆した。特許第656号においては、必要かつ好ましい装置製作の方法についての説明の開示がなされていないが、申し立てられた発明者は特許出願以前にこれらを知っていたものである。原告はこの情報が特許第656号の錠の実施に重要なものであると主張する。
54. 特許第656号には、ソレノイドの通電時間に関する開示がない。原告は、これがソレノイドと錠の作動に大変重要であると主張する。特許第656号出願前に、申し立てられた発明者はソレノイド通電時間は短くあらかじめ設定された時間で十分であり、試行錯誤の結果、試作品に関しては、錠の動作のための実際的な最短時間は約3秒であると判断した、と原告は主張している。この時間設定は特許出願前に、LaGardのモデルについてはソフトに組み込まれていた。原告は、この情報が特許第656号の錠の実施に大変重要であると強く主張している。上記のことから、申し立てられた発明者は[*30]この重要かつ必要な要件および申し立てられた発明のより良い実施方法を十分に知りつつ、これを隠匿し、開示を怠ったのである。
55. 公判において聴取された証言によって、通常の能力を持った当業者としては、適正な動作のためにソレノイドにはある種の磁気物質が含まれることが必要であることを望むであろうの結論にいたらざるを得ない。同様に、特許第656号に許容誤差もしくはソレノイドの通電時間の詳細情報が欠落しているために、通常の能力を持った当業者による特許第656号の実施が妨げられるものではないと考えられる。したがって裁判所は、特許第656号が最良の態様についての要件を満たしていないために無効であるとの、明白かつ確証ある証拠を原告が立証できなかったとした。